3)学級経営の指導の柱を立てる
まずは,学級担任として1年間の戦略,つまり,学級経営方針を立てます。ここでいう,学級経営方針とは,管理職に提出するようなものを意味して意図しているのではなく,もっと具体的な自らの学級経営の指導の柱となるものです。野中氏と横藤氏は,学級経営を織物の「縦糸」と「横糸」を比喩的に使って説明されています。をご存じでしょうか(野中・横藤,2011)。それは,通称「縦糸・横糸論」と呼ばれ,「縦糸」は教師と子どもの関係,「横糸」は子ども同士の関係を表します。つまり,学級経営において,教師はこの2種類の関係を紡いでいくことが求められるのです。したがって,どちらか1つの糸だけでは上手くいかないのです。
この「縦糸」だけを紡げばよい,または,紡ぐに留まっている方もいらっしゃるのではにでしょうか。そういう私自身も,若手の頃はそのように思っていました。子ども同士の関係は,放っておいても子ども同士で勝手に紡いでくれると・・しかし,それでは不十分であり,教師の意図的な指導が必要になります。「縦糸」のみ,つまり,教師と子どもの関係のみでつながっている学級は「鵜飼い型学級」とも呼ばれ,教師と個々の子どもがそれぞれ単独でつながっている状態です。このような学級では,教師の強力なリーダーシップで上手くいっているように見えても,子ども同士のつながりは脆弱で学級としてのパフォーマンスはよくない状態になってる傾向にあります(赤坂,〇)。したがって,教師はこの「縦糸」と「横糸」の2つの糸を意図的に紡いでいくことになります。
これら2つの糸を意識して具体的な指導の柱を立てるのですが,その具体的な指導方法は1人1人違うわけですね。一番避けたいのはノープラン。何も指導方法をもたないということです。それは,つまりは,以前書いたような明確な教育的意図をもたず,日々なんとなく指導する,業務をこなすような指導になってしまいます。そして,そのような教師にはこれという特徴もなく,当該学級の子どもたちにとって色もない教師に映ってしまいます。ですので,担任の方には,ぜひ,自分で1年間の大きな指導の柱を立ててほしいです。ですが,まだ,教師の経験が浅い方やこれから教師になろうとしている方はなかなか,イメージできないかもしれません。そんな時には,書店の教育書コーナーに行けば数多くの実践本がありますので,そちらを参考に自分に合った指導方法を検討するのがよいと思います。しかし,ここでは,私が今までに行ったことのある指導をご紹介します。
教師と児童をつなぐための実践
1)教師と個々の子どもをつなぐ
成長ノート(菊池氏の実践)
教師が個々の子どもとやりとりするために使うノートを決め,そのノートを使って個々の子どもとつながる方法とするものです。菊池氏はこのノートのことを「成長ノート」と呼んでおられました。ノートに書く内容は以下のようなものになります。
・「先生へのお願い」「私の取り扱い説明書」「私の放課後の過ごし方」などのように教師が書くテーマを決めて家で書いてくるように伝えます。特に,4月当初は子どもたちと初めて会うことが多く,個々の子どもについて知らないことが多いため,例のテーマのように子ども1人1人の特徴や様子を知るためのテーマにします。
・子どもたちが書いてきたノートにはできる限り,コメント付けて返します。学級の人数が多い場合は,1日で全員の子どもにコメントするのは無理ですので,1日に数人ずつ決めてコメントするなど工夫します。
・子どもたちがノートを書くことに慣れてくると,だんだん,テーマ以外のことについても書いてくる子どもが出てきます。また,子どもから書きたいテーマを募るということもありました。
2)教師と学級全体をつなぐ
学級通信
こちらは,昔からある実践ですね。しかし,発行を義務に感じたり,お隣のクラスの先生が書いているからという理由で書いたりしても長続きはしませんし,内容も単なる行事予定やお知らせと変わらないものとなってしまいがちです。ですので,私は,通信の内容を学級全体のことや1人1人の子どものよさに気づいたことを載せ,それを子どもたちはもちろん,保護者の方にもお知らせすることを目的にしていました。また,記事を載せる際に写真などを交えるようにしていました。発行の頻度ですが,量は少しでも毎日欠かさず出そうと決めて,A41枚を基本として毎日,発行していました。もちろん,学級通信は学級全体のみではなく,1人1人の子どもとつながる手段にもなります。
ちなみに,この学級通信を利用して,普段,子どもを目の前にしていては言えないような子どもたちに対する謝罪や後悔,または,指導した内容において誤解しないでほしいことなども書いていました。学級通信は,私にとっては自己開示するよい手段となりました。
児童同士をつなぐための実践
1)学習中において
子どもたちが学校で一番多くの時間を過ごすのは授業,つまり学習の時間です。そこで,この学習を利用して,子ども同士をつなげることが理想です。そこで,授業の中でペアでの対話や学び合い,協同学習を授業の中で導入し,教師が意図的に児童同士をつなげます。ここでは,各実践の詳しい説明はしませんが,協同学習は単に机をグループの形にするだけでは成立しません。協同学習を成立させるための指導をしたうえで実践しないと,逆に,そのグループ学習をきっかけにしてトラブルが発生する原因となってしまう恐れがあります・・
2)特別活動
①クラス会議
クラス会議とは,学級活動の話合い活動に属するものです。ですが,巷でよく行われている「単なる学級会の話合い」とは異なります。ジェーン・ネルセンら(2000)による理論に裏打ちされ,様々な実践者によって検証されてきているものです。このクラス会議は,私も学級担任の時に行っており,子ども同士をつなげる手段として学級経営の柱の1つにしていました。このクラス会議については,私が教職大学院で学んでいたころの師匠である赤坂氏のご著書がたくさんあります。おそらく書店の教育書コーナーに行けば見つかると思いますので,クラス会議についての詳しい説明はそちらを参考にしてください。
②係活動
おそらく,ほとんどの学級において,この係活動は行われていると思います。本来であれば,係活動は特別活動の中で位置づけられており,子どもたち自身によって学級をよりよくするための活動です。未だに,係活動と当番活動が混在する学級がありますが,例えば,当番活動である黒板を消す当番がの係活動の中に「黒板係」として存在している学級がありますが,この両者は教師側で明確に区別しておきたいですね。
先述の通り,当番活動は子どもたちにとって,楽しい活動であるべきですが,教師側で子どもたちにその活動を保証する時間が取れず,休み時間などを利用して活動させるため,十分な活動ができず,楽しいはずの係活動が原因で先生に叱られるという事態が起こってしまいがちです。実際,私もかつてはそうでした・・そこで,係を発足させたのなら,その活動時間をしっかり保証しようと思い,学級活動の時間にミニ集会を行うようにしました。そして,そのミニ集会に向けての準備時間も学級活動の時間に保証するように計画しました。そうすることで,子どもたちも余裕をもって準備ができ,ミニ集会というゴールに向けて係のメンバー同士が協力して取り組めるようにしました。
3)クラス言葉
このクラス言葉は,分かりにくいかもしれませんが,その学級独自で共通理解できるような言葉です。5年1組なら「五一言葉」などですね。私は,菊池氏の「価値語」という実践を行っていました。例えば,学習において,子どもたち同士に協力して学び合ってほしい時,その都度,趣旨を詳しく説明するよりも「1人も見捨てない」という言葉を提示することにより,短い言葉で子どもに分かりやすく,その行動のよさを伝えることができます。つまり,教師が子どもに「こうあってほしいという姿」を言葉を媒介にして伝えるのです。
したがって,このクラス言葉は授業中だけではなく,様々な場面において提示することになります。子ども同士をつなげるためには,どういった行動がよいとされるのかを前もって教師が考え,その理想となる姿をクラス言葉で提示したり,誰かがそのような行動をしていた時に,タイミングよくその行動を取り上げ,クラス言葉を提示してフィードバックします。言い換えれば,子どもの①よい行動を価値づけ,②クラス言葉にし,③フィードバックすることで,④教室内にそのよい行動を広める,ことを意図しています。
4月当初は,クラス替えもあり,高学年では男女がまだ,上手く交流できずに固まっている状態が多いです。そのような時期に,学び合いをしても男女別で固まって教え合う姿が見られます。そのような場面で,「男女別はジョーダン!?」などとクラス言葉を作って提示し,あるべき姿を提示します。くだらないかもしれませんが,案外,こういうのを子どもは喜びます。
以上,私の実践を少し紹介させていただきましたが,この他にもたくさんの実践があります。また,自分オリジナルの実践を行ってもいいのですが,初めて教師になられる方は,何かモデルとなる実践を参考にすればよいのではないでしょうか。いずれにしても,「縦糸」と「横糸」の2つの糸を意図的に紡いでいく学級経営の柱を決めることが大切です。
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